タグライン考

タグラインとは、企業が届けたい価値を短い言葉で端的に表したもの。社内の向かうべき方向を指し示し、社員の心を一つにする役割もあります。ここでは優れたタグラインに学びながら、各企業のタグラインにまつわるコラムを執筆していきます。タグラインの力を、大企業のものではなく、中小企業や個人事業主にも広げていくのも私達の使命の一つです。

 


     「地図に残る仕事」 大成建設

事務所のある代官山八幡通り沿いで、ここ数カ月道路工事が続いている。時には日をまたいでも重機の音が聞こえ、深夜でも人が働いているのが分かる。現場には横断幕が掲げられている。書かれているのは「地図に残る仕事。」。30年以上、大成建設が用いているタグラインである。たった8文字に込められた「建設の誇りとは」という視点。学生時代、このコピーを見た時、地球の裏側の緑の大地を開拓する人々が見えた気がした。当時、建設業は3Kと言われたが、「この仕事は自分がこの世を去っても地図に残る仕事なんだ」と新たな気づきを示して見せたのだった。働く人の旗印になるような、こんなコピーを、発見を書かなければならないと思う。深夜2時、八幡通り。今日もまた横断幕を背に、ブルドーザーが動いている。


             

 「やがて、いのちに変わるもの」 ミツカン

まだ私が小学生だった頃、祖母はお酢と蜂蜜、レモンを水で割った自家製ドリンクを家族のためによく作っていた。ビネガードリンクが流行るはるか前、お酢など誰も飲まない時代である。これを飲むとお酢の酸味で喉がギュッとなり、体に夏が来る気がした。そんな祖母との日々が脳裏に蘇ってくるのが、上記ミツカンのタグラインだ。江戸期、酢屋から始まった同社が調味料であるお酢を飲料として世の中に浸透させ、健康ブームを牽引し始めた2004年に創られ、以後ずっと使用されているものである。このタグラインには「だから」が見える。やがて、いのちに変わるもの。だから安心で、健康で、おいしいものを。だから品質に妥協しない。社員に確かな方向性を示すと同時に、あの日の祖母や、健康を願って食事を作る人々の代弁にも思えるのである。タグラインでありながらドラマを見せる。そんな1本は本当に強い。



                               

   「未来より、先に動け」 ヤマト運輸

最近ではダーウインの言葉ではなく、米国経営学者の意訳とされているらしい。「生き残るのは大きなものではなく変化に対応できるものだ」という進化論の一節のことだ。変化と言うにはコロナ禍はあまりにも大きかったが、私達はこの時代を生き残るべく変化の術を模索した。その中で、運輸会社のあり方も変わらなければという姿勢を見せたのがヤマト運輸のCMだ。処方箋が無くても自宅で処方薬を受け取れる。よく行く店で荷物を受け取れる。赤ちゃんを起こさないように置き配する。様々な「次の運び方」のシーンを見せた後に出る、「未来より先に動け」というタグライン。「ああ、届く」と思った。未来と言うと誰もが明るいものを想像するが、これ以上暗い未来にしないために、いま動こうと伝えているように思えた。時として凡庸に見えがちな「未来」という言葉で、コロナ禍でも次の未来を始めていいんだと訴えた1行には静かな力があった。主観だが、ダーウインの時代からの生物が生き残るための法則が、この1行にはある気がする。




  「さようならが、あたたかい」 サガミ典礼

祖母が祖父に嫁いだ22歳の時、姑さんから言われたのが「家の家系はお便所で倒れることが多いからその時は最後まで看病しなさい」というものだった。それから65年、祖父が倒れた時、祖母は姑さんの言葉通り359日毎日病院に通い、腕の中で祖父をみとった。そして葬儀の最後、「ご出立です」という葬儀屋さんの言葉を聞きながら、小さく呟いた「さようなら」。「おはよう」「おやすみ」「ただいま」「おかえり」…、そんな何気ない家族の会話の最後に「さようなら」という日が来るのだと思った瞬間だった。上記タグライン「お別れを、あたたかく」でも意味は同じだが、この「さようなら」が絶妙なのだろう。「さようなら」と「あたたかい」と言葉のギャップも効いている。なお、人を一人看取り、見送ることはある意味、戦いであると感じたが、「たたかい」と「あたたかい」は一文字違いなのだなと、このタグラインをふと見て思った。

「あったらいいなを、カタチにする。」 小林製薬

「トイレ、そのあとに」「熱さまシート」「ケシミン」…。小林製薬の商品は、ひと目で商品内容がわかるものが多い。小林製薬みたいなネーミングにしようと制作チームで話になれば、「ああ、あの感じね」と、誰もがピント来るほど「個性」と「わかりやすさ」がある。そうした商品を生み出すのに一役買ったのが、上記のタグラインだろう。タグラインには消費者に自社のサービスを認知させる一方、社員が向く方向を一つにする目的があるが、「お客様も気づいていない潜在ニーズ(こんなのあったらいいな)を開発しよう」という決意を掲げるこのタグラインのもと多くの商品が開発されたはずだ。ドラえもんの道具のように魅力的なモノを、小林製薬というポケットから社会に出していこうとする面白さと心意気。のび太君、ほら、こんなのあったらいいでしょ。熱血社員の声がする。

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